「RHCP UKツアー BIRMINGHAM Genting Arena」DAY2 ライブレポ

「RHCP UKツアー  BIRMINGHAM  Genting Arena」DAY2 ライブレポ

 

1.

なんとも賑やかな声が寒風に乗ってどこからともなく聞こえてきたのは、
ダウンジャケットの襟に顎を沈め、ヒル・ストリートを歩いている最中のことだった。
その快活なる喧噪は、バーミンガム タウンホールへ近づくにつれ次第に大きくなり、
やがてこの街を覆う鉛色をした空いっぱいに広がっていった。
1834年に建設され、今なお優れた音楽ホールと評されているその歴史的建造物に到着するなり、
不意に僕は笑みを浮かべる。騒然たる気配の正体が分かったからだ。
タウンホールに隣接するヴィクトリア・スクエアには多種多様な露店が出店されていて、
クリスマスマーケットに訪れた人々の足並みを牛車のような遅々たる歩みへ変えているが、
一拍立ち止まり三嘆したことを除けば、それは僕にも当てはまったのだった。

 

 

モアイ像

 

この場所へは観光目的で訪れたのだけれど、良い意味で予定が狂った。
僕はタウンホールの中へは入らず、誘い込まれるようにして隣の広場へ足を踏み入れていった。
露店でジャーマンソーセージ入りのホットドッグを購入し、食べながら広場を練り歩く
同じく観光で観ておこうと思っていたヴィクトリア像は、肩身の狭い思いで露店の背後で佇んでいる。

 

 

モアイ像

 

イギリス第一の都市であるロンドンは、移民の割合が半数を超えるが、
マンチェスターと並び、イギリス第二の都市であるここバーミンガムもその傾向は強いのだろう。
宿泊先のホテル近郊には中華街があり、通りでは随分とアジア人を見かけたが、
この広場に集まっている人たちも様々な人種で構成されている。
トルコ系、イスラム系、スパニッシュにゲルマン、アフリカにルーツを持つ黒人たち――。
多国籍の彼らの中に混じっている僕もまた、周りの人の目には移民と映っているに違いない。

 

 

モアイ像

 

ロンドンとリヴァプールを結ぶ線のちょうど中間点あたりに位置するバーミンガム。
18世紀まではこれといって特徴のない小さな村に過ぎなかった。
しかし19世紀に入ると、産業革命の進展に伴い、工業都市として急速な発展を遂げた。
当時は蒸気機関を発明したジェームズ・ワットや金属加工のマシュー・ボルトンなどが活躍した。
そんなこの街の歴史を思い浮かべながら、僕は次なる目的地へ足を運ぶ。
バーミンガムミュージアム&ギャラリー、それからバーミンガム大聖堂などを見てまわる。

 

 

モアイ像

 

ウスター・バーミンガム運河を右手に見ながらガスストリートを歩いていると、
やがてキャナルサイドカフェが視界に入ってきた。
僕は立ち止まり、ぼんやりとした視線でガスストリート・ベイシン( 船溜まり)を眺める。
トナカイとサンタに扮した人々を乗せた手漕ぎボードが眼前を横切ったので目で追う。
今では寂れた様子のこの場所も、200年前は活況を呈していた。
このペイジン周りの地域が再開発されたのは1990年代に入ってからのことである。

 

 

モアイ像

 

バーミンガムは、実に2000年にも及ぶ激動の歴史を有している。
当初はローマ人がこのエリアに砦と道を建設し、その後にアングロサクソン人が入植し始めた。
以降、開拓は着実に進み、鉄鋼と石炭の発見によって貿易も急成長した。
そして16世紀には莫大な金属加工業が設立され、重工業都市としての運命が定まった。

 

 

モアイ像

 

17世紀にはいわゆる「ガン・クォーター」が町に造られ、そこで携帯武器を生産し、
長いイギリス大内乱の間、オリバー・クロムウェル(共和制時代の独裁者)にそれを供給し続けた。
19世紀の産業革命の頃には、商品を輸送するための運河が整備され、
またロンドン・バーミンガム鉄道などの新しい鉄道線路も建設され、ものすごい勢いで発展した。
古い街区や運河が改造されて、流行最先端のマンション、カフェ、観光アトラクションが
立ち並ぶようになったのは第2次世界大戦以降のこと。
今では、昔ながらの伝統的な良さと、近代的できらびやかな夜の世界を併せ持つ、
英国で最も国際的な都市のひとつとして発展を遂げている。

 

 

モアイ像

 

僕はベイシンを後にすると、バーミンガム中心の商業区域であるブル・リングに向かった。
街はクリスマス一色で、此処 彼処での演奏が陽気な雰囲気を作り出している。
歴史のあるショッピングセンターということもあって、どの場所も人で溢れ返っている。
メインエントランスにある牛の銅像の前で立ち止まると、僕はこの巨大なモールをぐるりと見回した。

 

モアイ像

モアイ像

モアイ像

 

賑やかな街並みを眺めていると自然と目に涙が浮かんでくるのはなぜだろう。
それは異国の情緒が成せる業なのかもしれない。
ふと時計に目をやると、いつのまにか時計の針は17時をまわっていた。
どっぷりと観光に没頭していたようだ。
僕は行き交う人々の隙間を縫うようにして歩き、駅に向かう。
今回の遠征で観るライブは今日が最後。
本当はもっとライブを観たいし、もっと街を見て歩きたいのだけれど、そういうわけにもいかない。
ロンドン方面行きの列車に揺られる僕の思量の中心には、
愉快なる寂寥とでも形容すべき、幾分複雑で落ち着かない心持ちがどしりと根を張っている。

 

 

 

2.

バーミンガム公演のチケットは、両日とも会場であるGENTING ARENAのプリセールで購入した。
だから2日ともスタンディングにすることは可能だったのだが、
あまり深くは考えずに、最終日はゆっくり観ようと思ってスタンド席にしていた。
本遠征中、やはりスタンディングにしておくべきだったかなという後悔の念は、
多少なりともずっと胸の内にあったのだけれど、この選択は正しかったとわかったのは、
ライブが始まってからすぐのことであった。

 

 

モアイ像

 

会場に着いたのは18時過ぎだった。
ホールに入るとまずはツアーTシャツを購入する。
それからフードコートで食事を済ませ、19時過ぎにアリーナの中へ入る。
僕の席は上手スタンドの中団あたり。ステージのほぼ真横の位置だった。

 

席に腰を落ち着けて館内をぐるりと見渡す。
客の出足は昨日と同じくらいだろうか。
週末なので、平日開催だったグラスゴー公演のときよりも客の入りは良い。
開演10分前には5割ほどの観客で埋まっていた。

 

入場前、フードコートで歓談したり飲食している客は随分といた。
おそらく彼らはメインアクトの開演に合わせて入場する算段なのだろう。
できればBABYMETALのライブも観てもらいたいのだが、残念ながら僕には為す術がない。

 

下のフロアへの未練を内包しつつ、僕は開演時刻を待ち続ける。
当たり前だが、スタンドにいるほとんどの客はRED HOT CHILI PEPPERSのファンのようだ。
僕はおもむろに白いシャツを脱ぐと、BABYMETALのTシャツ姿になる。
なんとなく奇異な目で見られているような気がするが、それは僕の思い過ごしなのだろう。

 

BABYMETALにとって今夜のライブは5公演目。
ゲスト参戦は全部で8公演だから今日から折り返しとなる。
後半戦の弾みになるように、今夜のライブが今までで一番盛り上がればいいのだけれど。
そんな願望を胸に待ち続けているとやがて定刻を迎えた。
不意に暗転し、「BABYMETAL DEATH」の厳かなプレリュードが流れてくる。
近くで鳴った指笛の残響音が僕の感情をぐらりと揺らし始める。

 

 

 

 

3.

セットリスト

01 BABYMETAL DEATH
02 ド・キ・ド・キ☆モーニング
03 Catch me if you can
04 メギツネ
05 KARATE
06 ギミチョコ!!

 

モアイ像

 

前奏曲に続いて「BABYMETAL DEATH」の六連符リフが館内に轟く。
その瞬間、「えっ」と思う。
昨日よも明らかに音圧が上だった。
椅子の振動が腰の上まで伝ってくる。
興奮で早くも心臓が早鐘を打ち始めている。

 

フロアの観客たちの細かい表情まではわからない。
が、固唾を飲んで見守っている、誰もがそういう心境でいることはなんとなくわかった。
スタンドの様子はというと、前の席に座っている人たちはみな、
微動だにせずにジッとステージを凝視し続けているといった按配だった。

 

やがて3人が登場し、お決まりのポーズを決める。
モニターがないから3人の表情まではわからない。
遠くの方で歓声が聞こえた。おそらくは最前付近の人たちのものだろう。
眩しい照明が点滅を繰り返すたびに群衆の頭が煌々と照らし出されている。

 

神バンドの演奏は今宵も非常にタイトであった。
たとえステージがよく見えなくとも、この “ 音 ” さえあれば存分に堪能することができる。
僕は座ったまま小さくヘドバンを繰り返す。
快楽物質であるドーパミンが、意気揚々と小躍りしながら僕の脳内を駆け巡っている。

 

曲が終盤になったところでアリーナ後方を見やる。
そこでも、僕は、「えっ」と驚嘆する。
開演10分前で約半分、開演間際も6割弱だったはずの観客の数が一気に増えている。
俄かには信じられない光景だったから、僕は2、3度同じ行為を繰り返した。
だけど確実にフロアの後方まで人が入っている状況だった。

 

たまたまこの時間に来た人たちが順次フロアに入場してきただけなのかもしれない。
ただ僕には、この1曲目の演奏が多くの観客を誘導したようにしか思えなかった。
そうでなければ、わずか5分でここまで人が増えた整合性を見い出すことができなかった。
多くが小走りで入場したからこそ、短時間でここまで客の数が増えたのではないだろうか。

 

やがて曲が終わると、呆気に取られていた観客たちが手を動かして拍手をしたが、
その数はそう多くはなく、放心したままの状態でいる客の方が多いように見受けられた。
事実、僕の周りの観客、おそらくはスタンドのどの場所でも似たような光景だったのだと思うが、
ざわめきなのか歓声なのか判別しにくい声が遠くの方から聞こえてくる中、
彼らは曲が終わってもほとんど身動きせずにずっとステージを眺め続けていた。
おそらくは “ 思っていたのと違う ” といった心境で固まっているのだと思われる。

 

続いて披露された曲は「ド・キ・ド・キ☆モーニング」。
意外な選曲に僕は三度「えっ」と驚く。
それにしても1曲目とのこのギャップはどうだ。
これでは、だいたいの客が確実に頭に混乱を来たすだろう。

 

音圧レベルは相変わらず高い。
特にドラムのバスドラが地響きのように襲ってくる。
ステージセットの上部から吊り下がっているラインアレイスピーカーが近いから、
昨日のフロアで感じたそれよりも強く感じるのかもしれなかった。

 

ふと眼下に、ステージ上手の袖に人影が見えたのは曲の途中でのことだった。
それがペッパーズのフリーであることは、ベースを抱えているシルエットでわかった。
彼は前日もステージ脇でベースを肩からぶら下げたまま彼女たちのライブを観ていたのだった。
結局彼は次の「Catch me if you can」が終わるまでその場から動かなかった。

 

モアイ像

 

 

SU-METALの声の調子は今日もすこぶる良い。
こんなに爆音なのにとてもクリアに聞こえる。
やがて曲が終わると館内の至る所から歓声が沸いた。
1曲目が終わった後よりもその歓声は大きくなっていた。
BABYMETALのパフォーマンスのスタイルを受け入れた人が増えたということなのだろう。

 

 

モアイ像

 

3人が一旦ステージをハケる。
代わりに神バンドの面々がお立ち台に上がる。
Leda神が今日も “ Can’t Stop ” のリフを弾くと一段と大きな歓声が沸いた。
盛り上がりの一役を買っている。
青山神のスネア連打とブラストビートはこれまで観てきた中で一番の迫力だった。

 

ふとBOH神の話を思い出したのはそのときだった。
1年ほど前のニコ生配信で、BOH神は、遠征中の話を少ししていたのだけれど、
青山神は移動中もオフの日もほとんど寝て過ごしているといった発言をしていた。
きっとライブ中には、特にキックの連打で相当なエネルギーを消費するだろうから、
空いた時間は寝ることを優先にして、少しでも体力の回復に努めているのかもしれない。
彼のこの気迫の篭ったプレイを眺めているうちにそのエピソードをはたと思い出した。

 

3人が手を上げ、 “ ハイ! ハイ! ” と声を弾ませながらステージ上に躍り出てくる。
一緒になって手を上げる観客の数は少ないが、それ以外の多くが彼女たちを凝視している。
フロアからだと、どうしてもフロントの3人に目が行きがちで、
後方の神バンドの細かな動きまで注意を払うことはないのだけれど、横から見ていると、
彼らが激しく動き回りながら演奏していることがよくわかった。
藤岡神も、BOH神も、Leda神も、その一瞬に気持ちを入れ込んで演奏している。

 

 

モアイ像

 

ギターのザクザク音がとても心地良い。
堪らなくなった僕は、座ったまま、ヘドバンの動きを大きくする。
フロアにいる客の動きはこれまでとあまり差はないように思えるが、
なんとなく熱気が大きなうねりとなってフロア中に蔓延しているいるように感じられた。
それに比べ、スタンドの観客たちは一切立ち上がることなく静観を決め込んでいる人ばかりだった。
奇声のような叫び声を上げている、少し離れた場所にいる熱狂的なひとりのキツネを除いては。

 

僕はぐるりと館内を見渡しながら大きく息を吐く。
なるほどこうやって俯瞰で見ると、フロアの熱が次第に高まっていく様子が随分とわかった。
それは同曲が終わった直後の歓声や拍手からも見て取れた。
スタンドの観客も、曲が終わるごとに、拍手をする人の数は増えてきているようだった。

 

 

モアイ像

 

そのままライブは「メギツネ」へと続いていく。
イントロの轟音が鳴るたびに、周りの観客たちが驚いているように見える。
SU-METALの声はここでも館内中に響き渡っている。
この会場のキャパシティは最大で15700人だったと思うが、ドームを支配した彼女からすれば、
このサイズの箱の空間を歌声で覆い尽くしてしまうことは造作無いことなのかもしれない。
彼女の声質が苦手だという人もいるのだろうが、この圧倒的な声量、豊かな倍音、
そして正確なピッチを耳にすればヴォーカリストとしての資質を認めないわけにはいかないだろう。

 

ブリッジの途中で煽りが始まる。
前曲の「Catch me if you can」の煽りのときと同じく、
ここでもSU-METALが流暢な英語を駆使して観客たちに話しかけている。
3人と一緒にメギツネジャンプを飛んでいる観客の数はそれほどでもない。
これは前座のライブである今回のツアーでは、どこの会場でも同じ結果となるのだろう。
ただ一度体験し、BABYMETALに少しでも興味を持った者であれば、
次の機会には完全に偏見を捨てて積極的に参加すると思われる。
なにしろ彼女たちのライブは、勝手に体が躍り出してしまうほど心底楽しいのだから。

 

やがて曲は終盤へ。
ステージまでは遠いのだが、MOAMETALとYUIMETALの躍動感はここまで伝わってくる。
曲が終わると場内から歓声と拍手が沸き起こる。
心なしかフロアの密集度が高くなってきていると感じる。

 

 

モアイ像

 

続けざまに次曲「KARATE」が始まるが、ざわつきはまだ止めようとはしなかった。
スタンドも、アリーナも、すべての客が、まるで大統領の演説に真剣に耳を傾けるように、
一瞬の瞬きも許されないといった具合に刮目してステージを眺めているように感じられる。
ここに至って僕は、ほんの一瞬ではあるが、今夜が単独ライブであるような錯覚を引き起こす。

 

少しずつ体を揺らし始めるスタンドの観客の数が増えている。
この曲が持つグルーヴ感が彼らに影響を及ぼしているのかもしれない。
刹那、ステージからエネルギーの波動のようなものが一気に噴出したように窺えた。
それはサビの冒頭で感じたのだが、照明や爆音がそういった視覚効果を生んだのかもしれない。
高い位置にいる僕には、フロア全体がしばらくの間、大きく揺らいでいるように見えた。

 

やがて間奏に入り、スポットライトがSU-METALを照らす。
彼女が張りのあるクリアボイスで観客たちに訴え始める。
全身が泡立つ感覚を覚えたのは、そのすぐあとのことだった。
彼女が英語で “ 声を聞かせて ” と言ったあとの歓声も胸にグッとくるものがあったが、
“ 手を上げて! ” と叫んだあとにフロアにいるほとんどの観客がそれに倣ったから驚愕した。
その光景を目にした瞬間、唇がわなわなと震えた。
我慢しても我慢しても、どうにも嗚咽が漏れてくる。
瞳を凝らして見つめる僕の体が小刻みに揺れ始める。
これが前座のライブであるという概念は、このときばかりは完全に意識の外に追いやられていた。

 

こうなることを、いったい誰が予測できただろうか。
こうなるだろうと言ったところで、いったい何人が信じただろうか。
メタルフェスならまだしも、今夜の観客はほぼ全員がペッパーズのファンたちなのだ。
彼らはフェスに出演する多くのアクトを見に来たのではなく、
大好きなRED HOT CHILI PEPPERSのライブのみを見に来ているのだ。
そんなメインアクトのファンを一気に引き込んでしまうBABYMETALの底力。
アウェイに強い彼女たちの真髄を、僕は目の前でまざまざと見せつけられた。
今夜のライブは、もしかしたら彼女たちのライブをこれまで観てきた中で、
一番強く印象に残るかもしれない。
あの豪雨の中、神がかったライブを披露したダウンロードフェスUKのときよりも。
それほどまでにこの光景は、予想をはるかに上回った強烈なインパクトと輝きがあった。

 

歓声や口笛が飛び交う中、SU-METALがコール&レスポンスを始める。
彼女の後に “ ウォウォ~ ” と続く声が聞こえてくる。
どれほどの観客が声を発しているのかはわからないが、
先のグラスゴー公演、そして昨夜のライブを含めても一番大きなレスポンスだった。
彼女たちに対する称賛の拍手や歓声は、ここスタンドからもぼちぼちと起こっている。

 

涙が滲んだままの瞳で僕はステージを見つめ続ける。
SU-METALのロングトーンが気持ちよく脳幹を突き抜けていく。
曲が終わり、アウトロが流れ始めると、指笛やら歓声やらが、誇張ではなく、
会場全体から沸き上がったのだった。
それも称賛の他に、尊崇や恭敬といった恭しい精神的な態度も表しながら。
会場全体に渦巻く熱い息吹をひしひしと感じながら、僕はひとしきり感動に打ち震えた。

 

 

モアイ像

 

喧噪が未だ続く中、最後の「ギミチョコ!!」が始まる。
冒頭のノイズ音が、どよめきやらざわめきやらを抑え込む。
曲が始まると、ステージ上の3人はこれまで以上に輝いて見えた。
確かな手応えは感じたのだろう、神バンドの奏でる音がいつも以上に弾けて聴こえる。

 

ブリッジに入ったところで客煽りが始まった。
SU-METALに促されて手を叩く人の割合は半分近くはあるだろうか。
3人が再び踊り出すと、同時に頭を揺らす人が何人か目に留まった。
背後から見ていると、スタンドの観客もだいぶ温まってきていることが容易に見て取れた。

 

大サビに入るところで、今度はコール&レスポンスが始まる。
“ チョコレート、チョコレート ” とレスを返す観客の数はそこそこいるようだ。よく聞こえる。
やがて曲は終わりを迎え、3人が恒例の “ We are BABYMETAL” コールで締める。
ワーッといった賑やかしい歓声があちこちからひっきりなしに起こる。
彼女たちが “ See You ” と言って去ってもなお、拍手は鳴り続けている。
神バンドが挨拶を済ませて袖に引っ込むとようやくその音は消えたのだけれど、
代わりに、愉悦交じりの嘆息やざわめきが周囲から漏れ聞こえてきた。
良いものを見せてもらったという声が熱気に混じって館内に充満している。

 

照明が灯り、会場全体が明るくなる。
今夜でもう何度目だろう、そこでも僕は「えっ」と驚く。
フロアの観客の数の増加は1曲目の「BABYMETAL DEATH」の時にわかっていたが、
スタンドにも随分と観客の姿があった。
おそらく全体の9割近くは埋まっているのではないだろうか。
その光景を脳が認識するや、僕はまた感動に打ちひしがれたのだった。

 

 

 

わずか1週間前のO2アリーナ公演の記憶が蘇る。
ライブ終了直後、フロアの後ろ半分は人もまばらで、
スタンドに至っては3割ほどの入りでしかなかったのである。

モアイ像

 

 

翻って、今夜のライブ終了後は、これだけの人で溢れ返っていた。

モアイ像

 

平日開催と週末開催の違いはあるにせよ、これだけの観客を集めることができたのは、
やはりBABYMETALのパフォーマンスが際立っていたからだろう。
仮に注目を引かないライブパフォーマンスであったならば、
最初からペッパーズのライブ前に入場を決め込んでいた人たちは、
きっとエントランス付近で歓談や飲食を続けていたに違いない。
おそらくはとんでもない演奏と歌声を耳にして、
“ 一体これは何だ!?” と慌てて入場してきたものだと思われる。
実際にスタンドでは、BABYMETALのライブ中、ぞくぞくと人が入り込んできていた。
ペッパーズのライブだけが観たいのであれば、
前座の演奏が終わるまで、彼らはフードコートあたりでゆっくりしていたはずである。

 

こうして、彼女たちのライブは、前座としては予想以上の大成功を収めて幕を閉じた。
まさかこんな光景を目にすることになるとは想像してもいなかった。
ライブ直前までは、スタンドに座っていることに若干の虚しさも感じていたのだけれど、
この席で俯瞰して観たからこそ、ライブが活況を呈していく様子を目視することができた。
僅か40分足らずの内容ではあったが、今夜のこの体験は筆舌に尽くし難いものとなった。

 

 

 

30分ほどのインターバルを挟み、RED HOT CHILI PEPPERSのライブが始まる。
強烈なイントロジャムの演奏から会場は早くも興奮の坩堝と化している。
3度目にして初めて彼らのライブをスタンドから観覧することになったのだが、
スタンド席でもたくさんの人が立ち上がって一緒になって歌っている。
やはり海外のライブでは、合唱することが観客たちの一番の楽しみであるようだ。

 

「Dani California」「Dark Necessities」「The Getaway」とライブが続く。
「Under the Bridge」「By the Way」では再び大合唱が起こる。
結局彼らはアンコールを含めて18曲を披露した。
「Goodbye Angels」を披露しなかったことが少しばかり残念だったが、
過去の2回のライブで堪能しているから、今日のセトリも十分に楽しめた。
それにしても同曲や「Dark Necessities」のアウトロで見せた、激しくて熱い演奏は、
彼らのライブの一番の見どころであり、大変素晴らしいものだった。
今回の遠征で彼らのライブは3回観たが、一度たりとも飽きることがなかった。
若い頃の熱量は維持しつつ、大人の熟したライブパフォーマンスであった。
次に観る機会がいつになるのかはわからないが、今から楽しみである。

 

 

 

4.

会場を後にし、帰路に着く。
帰りの列車に揺られながら、僕は今夜のBABYMETALのライブを振り返る。
今思い出してみても、今日観たものは、まるで夢の中の話であるようだった。
特のあの「KARATE」の煽りでフロアの観客たちが一斉に手を上げたシーンは、
あれは本当に起こったことだったのかと疑心暗鬼になってしまう。
だけど現実だ。僕はこの目ではっきりと見た。
多くのペッパーズファンたちは確実に反応していた。
ひょっとして、あの出来事は、奇跡と呼べるものだったのだろうか――。

 

否、とすぐに僕は首を振る。
あれは奇跡でもなんでもない。
彼女たちがふだんどおりのライブを披露した結果に過ぎない。
初見の人たちから喝采を浴びる光景はこれまでに何度も目にしてきた。
彼女たちは幾度かあったアウェイの環境をものともせずここまで突き進んできた。

 

だけど、そうだとしても、と僕は唸る。
卓越した歌声の持ち主の無名のシンガーがその美声を披露するや否や、
初見の人たちが一気に引き込まれて称賛するというのは稀にあることだと思う。
たとえばスーザン・ボイルのように。
だけど彼女たちは日本語で歌っている。
映えるダンスやタイトな演奏に惹かれた人たちがいることを差し引いても、
観客たちの反応が良かったのは、
SU-METALの呼びかけが英語であったからということを考慮しても、
意味の分からない日本語の歌詞を聴いて熱狂する様はやはり特筆に値する。
人種や言葉の壁など関係なく、人々の心を打つ、無敵のライブパフォーマンス。
これは彼女たちが後に世界的なスターになっていくことを示唆している。
BABYMETALの音楽がボーダーレスであることを、今回僕は改めて思い知った。

 

横から今夜のライブを眺めていると、YUIMETALとMOAMETALは、
まるでアニメのヒロインがそのまま人間に取って代わったかのように見えた。
2人の愛くるしいキャラクターがそういうふうに感じさせたのだろう。
これまでに何度も思ったことだが、やはり彼女たちは絶世のパフォーマーだ。

 

SU-METALは、ライブ中は真剣な表情で歌っているシーンが多いが、
イギリスの観客たちを煽る際は、大いなる自信と喜びに満ち溢れた、
まるで女王が観衆に与えるような慈愛に満ちた笑みを振りまいていた。
彼女はまさにメタルの女神として会場を支配していた。

 

だけど、3人がお立ち台に立ち、微笑みながら声を振り絞り、
“ We are Babymetal!” と叫んだライブの最後の瞬間、その時だけは、
彼女たちは自らの夢のために生きる、ごく普通の少女たちに見えた。
彼女たちの全身からは、目が眩むほどの輝きがキラキラと発せられていた。

 

ライブ中の、彼女たちの謙虚な姿勢も大変良かった。
「ギミチョコ!!」の途中やライブ終了後に、3人は揃って、
ゲストで招いてくれたことに対する感謝の言葉を述べ、深々とお辞儀をしていたが、
彼女たちのこういった律義さ、礼儀正しさ、厚情というものは、
当のRED HOT CHILI PEPPERSの面々ばかりではなく、携わっている関係者、
また彼らのファンたちにとっても非常に好感を持てる一因となったに違いない。
前座としての立場を弁え、謙虚ながらも絢爛華麗に振る舞う。
彼女たちがたくさんの人に愛される要因が同シーンにも多く集約されていた。

 

また3人は、ステージの袖から連日チリペッパーズのライブを観ることで、
海外のアリーナクラスで自分たちが単独ライブを開催した場合の
イメージトレーニングをある程度はできているのだと思う。
すでにロンドンのウェンブリー・アリーナでライブは行っているが、
初の海外のアリーナショーだったので、おそらく反省材料は幾つかあったはずだ。
その反省を鑑みながら、彼女たちはペッパーズのライブを近くで観て、
より観客たちを乗せる方法や工夫をたくさん吸収したことだろう。
もしかしたら “ グルーヴ ” が一番大事だと肌で感じ、
それをダンスでどう表現しようかと既にチームで話し合っているのかもしれない。
そしてそう遠くない未来、試行錯誤の末に、彼女たちはそれを実践するのだろう。
また、今後3人ともに、今よりもさらに英語が上達していくことは間違いない。
なぜならばもっともっと英語で観客たちを煽りたいと思っているはずだから。

 

 

 

やがてバーミンガム・ニューストリート駅に到着し、ホテルに向かう。
風は随分と冷たいが、なぜかあまり寒さは感じない。
きっと今夜のライブで得た熱い感情がそのまま体内に堆積されているからだろう。

 

ペッパーズのUKツアーにゲスト参戦するのも残り3公演。
僕がそれを観ることは叶わないが、間違いなくうまくやれると信じている。
そして最終日のO2アリーナ公演が終了した後には、
きっとたくさんの新たなキツネが生まれていることだろう。
そんなことを考えながら夜道を歩いていると再び気分が盛り上がってきた。
僕はおもむろに立ち止まると、人目も憚らずに両拳を突き上げる。
そして “ GO FOR IT! BABYMETAL!” と内心で叫ぶ。
なんとも清々しい。

 

今宵、僕は「音楽」が持つ無限の可能性を垣間見た。
それを明確に示したのは、メタルの未来、BABYMETALだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モアイ像
モアイ像
モアイ像
モアイ像
モアイ像
モアイ像

 

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2 Comments

  1. shin

    2016年12月19日 at 10:08 PM

    体験談はいつも読むだけの人ですが、初めてコメントします。読んでいて涙が出ました。ありがとう。

    Reply

    • TERI-METAL

      TERI-METAL

      2016年12月21日 at 7:59 PM

      SHIN様

      状況の変化、観客の反応など、少しでも臨場感が伝わったのであれば幸いです。
      わざわざコメントいただきましてありがとうございました。心より感謝!

      Reply

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