遠征のススメ(日本武道館編)

遠征のススメ(日本武道館編)

「こんにちは。今からちょっと東京に行って来ます。明日の食事楽しみにしてますね!明日は夕方には福岡に戻っていますので。では、約束の時間に!」

メールアプリを閉じ、ツイッターを開いて検索に”BABYMETAL”と打ち込む。いつもと同じ、一日に何度となく行う行為だが、今日は情報の流れが特に速い。

3月1日。BABYMETAL武道館公演初日。

福岡空港第1ターミナルの待ち合いスペースは、東京を中心に国内各地へ向かう人々でごった返している。飛行機の出発まではまだ少し時間がある。

ついにこの日が来た。

10月に彼女に振られ、帰宅後や休日に暇を持て余していた中で見つけたBABYMETAL。夏にサマソニでMETALLICAを観てからというものYoutubeでメタル関連の動画を観ていたが、その中でたどり着いた”イジメ、ダメ、ゼッタイ”が男をここに立たせている。

「ライブの遠征で東京に行くなんてU2以来かな。そういえば最初は福岡にツアーで来てくれたら行こうかなとか思ってたなぁ。それなのにライブだけを目的に東京まで行くなんて我ながらすごい変化だな。ただ、これだけは観ておかないといけない。そんな直感に突き動かされてここにいるのだ。おっ、TL上ではもう物販に並んでいる人がいるな。Tシャツ1枚と武道館限定スペシャルセットだけで良いけど、買えるかどうか微妙かもなぁ。とにかく成田に着いたら急いで会場まで行こう。」

そんなことを考えていたらアナウンスが流れる。

「14時15分発JETSTAR東京行きにご搭乗のお客様、お待たせ致しました。ゲートへお進み下さい。」

はやる気持ちを押さえつつ、飛行機に飛び乗る。

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15時55分、成田空港到着。

成田エクスプレスで渋谷へ、地下鉄に乗り換え九段下へ。

九段下到着が17時50分。開演の10分前である。駅から小走りで坂を上り、5分前に武道館に到着。物販には列はなく、スムーズに骨Tシャツとスペシャルセットを購入。コルセットも交換し、会場内へ。

まだ客電は落ちていない。なんとか間に合った。

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コルセットを装着すると間もなく客電が落ちる。

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終演。

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会場を離れる人の流れに身を任せながら歩いていると、周囲の会話が聞こえてくる。皆一様にあの出来事に直面した時の感情、起こってしまった事の意味を語り合っている。脳裏に焼き付いたあの光景をどう捉えるべきなのか気持ちの整理が必要だが、それは置いておいて本当に素晴らしいライブだったと興奮状態は収まらない。九段下を過ぎたあたりまで歩くと人の数もかなり少なくなる。空腹感を思い出す。交差点で見つけた天丼屋で小腹を満たし、銭湯へ。今日泊まる予定のドミトリーにはシャワーしかないであろうと考え、下調べしておいた。ドミトリーから程近い場所にあり、湯冷めせずにすむだろう。中に入り、会計を済ませ脱衣所へ。

 

「ライブですか?」

ロッカーにグッズの袋を入れていると目の前にいた紳士に声をかけられる。

「はい。どちらから来られたんですか?」

「北海道です。」

彼の右手にはコルセットが握られていた。

「そうなんですか!私は福岡からです。もう上がられましたか?」

「はい。もし良ければ待ちますのでこの後どこか行きませんか?」

「ぜひお願いします!」

 

男達は夜中まで語り合った。ライブ初参加同士で、偶然にもドミトリーの同室であり、互いにBABYMETALについて誰かと語り合うのは初めてであった。どのようなきっかけでハマったのか、メンバーそれぞれについて、神バンドについて、曲について、ライブの感想、今日の事件について、他にどのような音楽を聴くのか、それぞれの地元のこと、仕事のこと、家族のこと、これまでの人生について等々。出会ったばかりとは思えず、年齢は違えども同じアーティストが好きであるということ以上のシンパシーが生まれていた。

深夜ドミトリーに戻り、床に就く。男達の部屋には大きくいびきをかき、咳き込みながら眠っている同室者がいた。その音に悩まされながらも疲れ切っていた男達は数時間の眠りについた。

 

3月2日、朝。

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コンビニで買ってきたもので軽く朝食を済ませると男達は武道館へ向かう。両者ともこの日のライブを見る予定はなく、それぞれ午後には東京を離れるのであるが、残された時間を武道館の雰囲気を感じながら共有したいとどちらからともなく提案し、買うわけでもない物販の列に並ぶ。午前中にも関わらず既にそこにはたくさんの人がおり、昨日の感想を語り合う者たち、座り込んでヘドバンを読む者、スマートフォンで情報を集めている者等、それぞれが思い思いにライブ前の時間を過ごしている。時折会場の中からライブでは同期される曲の断片やサウンドチェックするキックの音が漏れ聞こえてくる。この日のライブを見ることができないもどかしさを感じながら、男達は時間の許す限り語り合う。

「僕は成田でそろそろ時間なので行きますね。」

「じゃあ駅まで送ります。」

男達は物販の列から離れ、駅へと向かう。次回のライブで会う約束をし、別れる。

 

まだ離陸まではかなり時間がある。成田エクスプレスを使わなくてもいいだろうと判断し、快速列車で成田へ向かう。

イヤホンでアルバムを聴きながら目を閉じると、昨日のライブがよみがえる。

電車は終点成田空港第1ターミナルに到着する。免許証の提示を済ませターミナル内へ。JETSTARのカウンターを探す。ない。インフォメーションカウンターで尋ねる。JETSTARの国内線は第2ターミナル発着であることを聞く。まだ1時間ある。大丈夫だ。駅に戻り、一駅引き返す。第2ターミナルに入り、ゲートへ。異常なほどの人混みである。待つしかないか。待てども待てども進まない。福岡空港とは大違いだ。

「15時20分発のJETSTAR福岡便にご搭乗のお客様はいらっしゃいませんか?」

「はい。すみません。」

「こちらからお入りください。」

「ありがとうございます。」

間に合った。手荷物チェックを待ちながら少し安堵する。

「先に搭乗スタッフの手荷物チェックをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい。」

他の便の機長、副機長と見られる二人が先に手荷物を通す。順番になり、金属探知ゲートをくぐる。JETSTARと書いてあるゲートを探す。ない。廊下を進んでみる。誰もいない。引き返す。まだ20分ある。前方からさっきの機長、副機長が歩いてくる。

「すみません。このチケットなんですが、どこに行けば良いかわかりますか?」

「JETSTARですね。ここじゃないですよ。向こうです。」

「ありがとうございます。」

言われた方向に進む。階段を下りる。JETSTARのゲートだ。

「お客様!探したんですよ!たった今最後のバスが出たところです。もうご搭乗できません。」

「もう本日は福岡便はございません。大分便ならございます。」

「すみません。わかりました。ありがとうございます。」

一旦外に出て大分便を予約し、チェックインする。手荷物のゲートに戻ると人混みはまばらになっている。スムーズに2度目の手荷物チェックを済ませ待合スペースへ。男はメールアプリを開く。

「すみません。飛行機に乗り遅れてしまいました。今日は帰りが遅くなってしまいますので、また別の日にしてもらっても良いでしょうか?埋め合わせしますので!本当にすみません!!」

返事が届く。

「わかりました。全然大丈夫ですよ!気にしないでください。また今度楽しみにしてますね!気を付けて帰ってきて下さい。」

「ありがとうございます!今日は本当にすみませんでした。」

男は大分空港経由で長距離バスに乗り、福岡に到着したころには既に日付が変わっていた。

その週、男は木曜日から体調を崩し、週末の土日にも熱は下がらず、翌週の月曜日にはインフルエンザであると診断された。

その日初デートを約束していた女性からのメールがその後男に届くことはなかった。

男の婚期はまた一つ遅れ、婚期が訪れないという可能性も発生した。

 

(あとがき)

「家に帰るまでが遠足です。」とはどこかの校長先生の言葉ですが、遠征に関しては「無事に帰宅し黒Tシャツを洗ってタンスにしまうまでが遠征です。」と言えます。

もしくは、「ひいてしまった風邪を治すまでが遠征です。」です!

東京近郊にお住まいの方々が本当に羨ましいのですが、地方のファンには遠征というハードルを越えることによる喜び、思いがけない出会いがあるということを大切にしたいと思います。

最近の海外での活躍を見るにつけ、いつかは海外公演にも行かなければ、一度だけでも行ってみたいとの思いが強くなってきました。

旅にトラブルはつきものですが、トラブルがライブの印象と結びつき、強烈な思い出となっています。

地方にお住まいでまだライブに行かれていない方、遠征自体も良いもの(この記事を読んだら全然良いと思えないと言われてしまいそうですが)ですのでぜひ一度遠征してみてはいかがでしょうか?

最後に一言

チコク、ダメ、ゼッタイ!!!

 

 

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